189条(善意の占有者による果実の取得等)
善意の占有者は、占有物から生ずる果実を取得する。
② 善意の占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは、その訴えの提起の時から悪意の占有者とみなす。
趣旨
例えると、アパートを親からもらって家賃収入を得ているAがいる。ある日Bが来て、「あのアパートはあなたの親に預けていたので返してくれ」と言ってきた。その事情を知らなかったAはアパートを返さなくてはならないが、これまでに得た家賃収入は返す必要はない。
2項趣旨
裁判をして負けた場合は悪意の占有者とみなされるため、1項例でいうと、AB間で裁判が行われ、Aの敗訴が確定した時からAは悪意の占有者とみなされるため、その後の家賃収入はBに支払う義務が発生する。
190条(悪意の占有者による果実の返還等)
悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。
② 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。
趣旨
例えると、AはBのアパートであると知りながら勝手にCに貸して家賃収入を得ている。Bはそのことに気づき、アパートを返還するよう請求した。当然Aはアパートを返還しなくてはならないが、現存利益ではなく、既に使った分(消費)、未回収の分(収取を怠った)も含めて返還する義務が発生する。
2項趣旨
1項の規定は、
① 暴行 例:力ずくでアパートを占有した人
② 強迫 例:脅してアパートを占有した人
③ 隠匿 例:隠れてアパートを占有した人
以上3つのケースの占有者にも同じように使いますよということ。
191条(占有者による損害賠償)
占有物が占有者の責めに帰すべき事由によって滅失し、又は損傷したときは、その回復者に対し、悪意の占有者はその損害の全部の賠償をする義務を負い、善意の占有者はその滅失又は損傷によって現に利益を受けている限度において賠償をする義務を負う。ただし、所有の意思のない占有者は、善意であるときであっても、全部の賠償をしなければならない。
趣旨
占有者に損害賠償責任がある場合、占有者が、他人の物を占有していて、自分の故意や過失で占有物を壊したりなくした場合の損害賠償責任は、次の通り。
① 悪意の占有者(自主占有)
⇒ 損害の全部を賠償する義務がある
② 善意の占有者(自主占有)
⇒ 「現に利益を受けている限度」で損害を賠償する義務がある
③ 所有の意思がない占有者(他主占有)
⇒ 善意悪意に関係なく、損害の全部を賠償する責任がある
たとえば、Aが、Bの家に住んでいて、自分の不注意で屋根の一部を壊した場合の損害賠償責任は、次の通り。
① Aは、この家が自分のものではないと知っていた(悪意の自主占有)
⇒ 屋根の修理代を全額賠償する義務がある
② Aは、この家が自分のものだと思っていた(善意の自主占有)
⇒ 屋根の修理代を賠償する必要はない(壊れた屋根の賠償責任なし)
③ Aは、この家をBから借りて住んでいた(他主占有)
⇒ 善意悪意に関係なく、屋根の修理代を全額賠償する義務がある
なお、占有者が損害賠償をする「回復者」は、「占有物を返してもらう権利のある人」なので、上の例では、もちろんBさんが回復者。もし、不動産屋が仲介していたら、不動産屋が回復者になることもある。