91条(任意規定と異なる意思表示)
法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
趣旨
本条は、任意規定と意思表示の関係について規定しています。法律行為の当事者が、法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思を優先します。つまり、当事者の意思は、任意規定よりも優先されます。契約においては、当事者同士の合意があれば、その合意は、法律の任意規定よりも優先されます。
任意規定とは
任意規定とは、公の秩序に関しない法令の規定をいいます。言い換えれば、強行規定ではない規定です。任意規定は、国家や社会などの一般的な秩序とは関係のない規定です。このため、任意規定と異なる当事者の意思表示は、任意規定よりも優先されます。
なお、任意規定に対立する概念として、
「強行規定」があります。この点から、任意規定は、「強行規定でない規定」ともいえます。
任意規定は、いわゆる「契約自由の原則」のうちの「内容自由の原則」の根拠となります。民法上、第3編債権の規定の多くが任意規定です。ただし、どの規定が任意規定であるかは厳密には決まっていないことも多いため、契約実務上は、個別に規定を検討することになります。また、特別法は強行規定が多く、民法上は任意規定であったものが、特別法により強行規定になっていることがあります。
92条(任意規定と異なる慣習)
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習にによる意思を有していると認められるときはその慣習に従う。
趣旨
任意規定が適用される状況において、その任意規定とは異なる当事者の意思が存在しないものの、任意規定とは異なる慣習が存在した場合は、当事者がその慣習による意思を有しているときは、その慣習が意思表示の判断の基準となります。つまり、民法上のルールの優先順位としては、「任意代理>当事者の意思表示>慣習>任意規定」ということになります。なお、商法上のルールの優先順位は、「商法の強行規定>民法の強行規定>当事者の意思>商法の任意規定>商慣習>慣習>民法の任意規定」となります。
「その慣習による意思を有しているものと認められる」とは
本条における「その慣習による意思を有しているものと認められる」とは、積極的にその意思を表示している必要はありません。この点は、「慣習による意思を有していない」という反対の意思を表示しない限りは、「慣習による意思を有している」ものと推定されます(大審院判決大正3年10月27日、大審院判決大正10年6月2日)。