98条(公示による意思表示)
意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。
趣旨
意思表示をすべき相手が誰なのかわからない場合やどこにいるのかわからない場合は、表意者は、その意思表示を公示の方法によっておこなうことができます。「表意者が相手方を知ることができないとき」とは、例えば、契約の相手方が死亡した場合に、被相続人が誰なのかがわからないような状態をいいます。「所在を知ることができないとき」とは、災害が発生した後で、契約の相手方がどこに避難しているのかがわからないような状態をいいます。このような場合、相手方に対して、直接意思表示をおこなうことができません。このため、本項により、公示という方法によって意思表示をすることができます。
②前項の公示は、公示送達に関する民事訴訟法(平成8年法律第109号)の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載して行う。ただし、裁判所は相当と認めるときは、官報の掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場又はこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができる。
2項趣旨
第98条第1項に規定する公示による意思表示は、公示送達に関する民事訴訟法の規定に従い、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、その掲示があったことを官報に少なくとも1回掲載しておこないます。ただし、裁判所は、相当と認めるときは、官報への掲載に代えて、市役所、区役所、町村役場またはこれらに準ずる施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることができます。具体的には、民事訴訟法第110条〜第113条に規定された方法によっておこなうことになります。
③公示による意思表示は、最後に官報に掲載した日又はその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過したときに、相手方に到達したものとみなす。ただし、表意者が相手方を知らないこと又はその所在を知らないことについて過失があったときは、到達の効力を生じない。
3項趣旨
公示による意思表示(第98条第1項・第98条第2項参照)は、最後に官報に掲載した日、またはその掲載に代わる掲示を始めた日から2週間を経過した時に、相手方に到達したものとみなします。ただし、意思表示をする者が、相手方が誰であるかを知ることができないこと、または、その相手方がどこにいるのかを知ることができないことについて過失があったときは、意思表示の到達は効力を生じません。
本項はいわゆる
「みなし規定」であるため、本項が適用される場合は、実際に相手方に到達していない場合であっても、公示から2週間後に到達したものとして扱います。なお、通常の意思表示の場合は、相手方に直接通知し、到達することによって効果が発生します(第97条第1項参照)。
④公示に関する手続きは、相手方を知ることができない場合には表意者の住所地の相手方の所在を知ることができない場合には相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属する。
4項趣旨
公示に関する手続は、意思表示をする者が、相手方が誰であるかを知ることができない場合には、表意者の住所地の簡易裁判所、相手方を特定はできているが、どこにいるのかを知ることができない場合には、相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属します。
⑤裁判所は、表意者に公示に関する費用を予納させなければならない。
5項趣旨
本項は、公示による意思表示の費用について規定しています。裁判所は、意思表示をする者に、公示に関する費用をあらかじめ納めさせなければなりません。つまり、公示による意思表示は前払いということです。
98条の2(意思表示の受領能力)
意思表示の相手方が、その意思表示を受けたときに、意思能力を有しなかったとき又は未成年若しくは成年被後見人であったときは、その意思表示をもってその相手方に対抗することができない。ただし、次にあげる者がその意思表示を知った後は、この限りでない。
1、相手方の法定代理人
2、意思能力を回復し、又は行為能力者となった相手方
趣旨
未成年者・成年被後見人は意思表示の受領能力がない
意思表示の相手方が、その意思表示を受けた時点で未成年者(第5条第1項参照)または成年被後見人(第7条参照)であった場合は、意思表示をした者は、その相手方に対してその意思表示を主張することはできません。ただし、その法定代理人か、意思能力を回復した本人、又は行為能力者になった本人がその意思表示を知った後は、その相手方に対してその意思表示を主張することができます。
未成年者・成年被後見人の側から意思表示の受領の主張はできる
本項により、意思表示をした側は、未成年者や成年被後見人に対しては、意思表示をしたことを主張できません。逆に未成年者や成年被後見人の側から意思表示をしたことを主張することは差し支えありません。つまり、意思表示をした側としては、自らは意思表示の受領を主張できませんが、意思表示を受けた側は、意思表示の受領を主張できます。このため、未成年者・成年被後見人が相手方の場合は、意思表示をする側は、一方的に不利な立場になります。
本条は被保佐人・被補助人には適用されない
なお、本項では、制限行為能力者のうち、未成年者と成年被後見人についてのみ規定しています。このため、被保佐人(第12条参照)と被補助人(第15条第1項参照)に対しては、通常の行為能力者と同じように、意思表示を受領を主張することができます。