21条(制限行為能力者の詐術)
制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるために詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。
趣旨
本条は、制限行為能力者による行為能力の詐術について規定しています。制限行為能力者が、その行為に制限の無い行為能力者であることを信じさせるために詐術を用いたときは、その行為を取り消す(第120条第1項参照)ことができません。本来、制限行為能力者は、通常の行為能力者よりも物事の認識ができなかったり不十分であったりするからこそ法律によって保護されるべきものです。しかしながら、その制限行為能力者が、自ら偽って、その行為に制限の無い(=行為能力者)ものと相手方を信じ込ませた場合は、もはや法律によって保護するに値しません。
このような場合は、その制限行為能力者の取消権を制限することにより、騙された相手方は保護されます。
典型的な例としては、未成年者(第5条第1項参照)が成年(第4条参照)であると偽って契約を結ぶ場合などです。親によって勝手に契約を取り消されないようにするため、未成年者が嘘をついて成年として契約を結んだ場合は、本条により、取り消しができなくなります。なお、具体的にどのような行動が「詐術」にあたるのかは、判例によって微妙な違いがあり、一義的な基準はありません。
第4節 住所
22条(住所)
各人の生活の本拠をその者の住所とする。
趣旨
本条は、民法における住所の定義について規定しています。民法では、その者の生活の本拠となっている場所を、その者の住所としています。つまり、本条により、生活の本拠=実際に住み、生活の中心となっている土地の住所をその人の住所とする、ということです。
住民票の住所=民法上の住所とは限らない
本条の規定は抽象的な表現であるため、明確な定義であるといはいえません。このため、実際の住所は、それぞれの事情を客観的に総合して判断されます。例えば、住民票の住所であるからといって、必ずしも本条でいうところの(つまり民法における)「住所」とされるとは限りません。
住民基本台帳に記載されている住所は、民法上の住所を決定づける、ひとつの判断材料に過ぎません。
23条(居所)
住所が知れない場合には、居所を住所とみなす。
②日本に住所を有しないものは、その者が日本人又は外国人のいずれであるかを問わず、日本における居所をその者の住所とみなす。ただし、準拠法を定める法律に従い、その者の住所地法によるべき場合はこの限りでない。
趣旨
本項は、住所がしれない場合の住所の定義について規定しています。住所(第22条参照)がどこかわからない場合は、住所のように生活の中心の場所とまではいえないまでも、実際に生活している場所(=居所)を住所とみなします。生活の中心となっている場所(=住所)はわからないまでも、実際に住んでいる場所(居所)ならわかる、という状況の場合は、本項により、わざわざ住所を探す手間を省くことができます。
みなし規定
本項はいわゆる「みなし規定」であるため、本項が適用される場合は、反証があった場合であっても、住所についての法的な効果は居所に生じます。
2項趣旨
本項は、日本に住所を有しない者の住所について規定しています。日本人であろうと、外国人であろうと、日本国内に住所(第22条参照)、つまり生活の中心となっている本拠がない者については、日本国内の居所(第23条第1項参照)、つまり実際に生活している日本国内の場所を、その者の住所とみなします。ただし、準拠法を定める法律によって、その者の住所地法によるべき場合は、その住所地法が優先されます。前項は、住所が不明である場合の規定ですが、本項は、住所は明らかであっても、その住所が日本国内にない場合の規定です。
みなし規定
本項はいわゆる「みなし規定」であるため、外国に住所がある場合であっても、住所についての法的な効果は日本国内の居所に生じます。
24条(仮住所)
ある行為について仮住所を選定したときは、その行為に関しては、その仮住所を住所とみなす。
趣旨
本条は、仮住所について規定しています。ある行為の当事者が、その行為について仮住所を選定した場合は、その行為に関しては、その仮住所を住所とみなします。本条により、生活の中心となっている実際の住所(第22条参照)がある行為をおこなう際に不都合となる場合は、もっと都合の良いところに仮住所を選定し、その行為をおこないやすいようにできます。例えば、地方在住の個人事業者が東京で事業をおこなう場合に、その事業について東京の仮住所を選定したときは、その事業に関しては、東京の仮住所が住所とみなされます。
みなし規定
本条はいわゆる「みなし規定」であるため、他の場所に住所がある場合であっても、選定された行為についての法的な効果は選定された仮住所に生じます。