8章 先取特権
第1節 総則
303条(先取特権の内容)
先取特権者は、この法律その他の法律の規定に従い、その債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
趣旨
先取特権を有するものは他の債権者より先に債権を回収する権利を持つというもの。先取特権が付随する債権は以下の物がある。
1、未払いの給料
2、未払いの家賃
3、未払いの売買代金
例えると、A社の社員Bがいる。A社はC銀行とD銀行から80万ずつ借り入れをしている。しかし、A社が倒産することになり、その時点でBの給料40万が未払いであった。A社の財産は100万円である。債権は平等に分けるという原則があるので、通常の債権であればBは20万、CDは40万ずつという分け方になる。しかし、Bの未払いの給料には法律上、先取特権が付いているので、BはCDの通常の債権より先に回収する権利を持っている。従って、Bは40万全額を先に回収し、残った60万をCとDで30万ずつ分けるということになる。
304条(物上代位)
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
② 債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。
趣旨
例えば、AはBに200万円で車を売った。Bはその200万円をAに払う前にCに300万で売ってしまった。すると、AのBに対する200万の債権には先取特権が発生するため、Aは、BのCに対する300万の債権に対して200万円を先に回収できる権利を有する事になる。この場合、CがBに300万を支払う前にその支払いを差し押さえないと物上代位の効力は得られない。ちなみに、Bが車を占有した時に、誰かに壊されて弁償させる代金や、その車を誰かに貸してレンタル料を取っていた場合などでも、その金銭(Bがお金を受け取る権利)に対して先取特権を行使できる。
2項趣旨
前項の例を引用すると、BはAに200万を支払う前にその車を質屋に入れて、100万円を借りようとしている場合、その100万円に対してもAは先取特権を行使できる。これも、Bが100万円を受け取る前に差し押さえなければならない。
305条(先取特権の不可分性)
第296条の規定は、先取特権について準用する。
趣旨
例えば、AはBに100万の車を2台売った。AはBが200万を払うまでその2台の車両方に先取特権を有する。100万払っているから、1台は先取特権が消滅するわけではない。(全額支払うまで先取特権は消滅しない)