398条の10(根抵当権者又は債務者の会社分割)
元本の確定前に根抵当権者を分割をする会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債権のほか、分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に取得する債権を担保する。
②元本の確定前にその債務者を分割をする会社とする分割があったときは、根抵当権は、分割の時に存する債務のほか、分割をした会社及び分割により設立された会社又は当該分割をした会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継した会社が分割後に負担する債務を担保する。
③前条第3項から第5項までの規定は、前2項の場合について準用する。
趣旨
分割は2種類ある。
1、新設分割(A社が分割した事業を新しく設立されたB社が引き継ぐ場合)
2、吸収分割(A社が分割した事業を既存のC社が引き継ぐ場合)
分割後は、分割の時に存在していた根抵当権のみ使用可能。
分割後に取得する根抵当権はABC社すべて使用可能。
2項趣旨
前項と同じ。(債権者と債務者が逆になっただけ)
3項趣旨
合併の時と同様に、分割の時も根抵当権設定者から元本の確定を請求することができる。
1、元本の確定の請求(398条の9第3項)
2、元本が確定する時点(398条の9第4項)
3、元本の確定の請求ができる期間(398条の9第5項)
398条の11(根抵当権の処分)
元本の確定前においては、根抵当権者は、第376条第1項の規定による根抵当権の処分をすることができない。ただし、その根抵当権を他の債権の担保とすることを妨げない。
②第377条第2項の規定は、前項ただし書の場合において元本の確定前にした弁済については、適用しない。
趣旨
元本確定前の根抵当権は376条の「抵当権の処分」を使って処分することはできないが、譲渡や一部譲渡は認められている。また、根抵当権を担保にする「転根抵当」も認められている。
2項趣旨
例えば、A社(根抵当権設定者)が自社所有の土地に根抵当権を設定してB銀行(根抵当権者)から融資を受けている。B銀行はその根抵当権を担保にC銀行(転根抵当権者)から融資を受けている。この場合、A社は、B銀行に債務を返済することに関してC銀行の承諾を得る必要はないということ。
398条の12(根抵当権の譲渡)
元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権を譲り渡すことができる。
②根抵当権者は、その根抵当権を2個の根抵当権に分割して、その一方を前項の規定により譲り渡すことができる。この場合において、その根抵当権を目的とする権利は、譲り渡した根抵当権について消滅する。
③前項の規定による譲渡をするには、その根抵当権を目的とする権利を有する者の承諾を得なければならない。
趣旨
根抵当権は第三者に譲渡できるが、条件が2つある。
1、根抵当権設定者(債務者)の承諾を得ること
2、その根抵当権の元本が確定前でなければならない
2項趣旨
根抵当権は分割してその片方を譲渡することもできる。例えば、A社所有の土地に極度額1億円の根抵当権を設定してB銀行が融資をしている場合、その1億円の根抵当権を7000万円と3000万円に分割し、3000万円の部分をC銀行に譲渡することができる。しかし、分割する前にその根抵当権を担保にD銀行から融資を受けている場合、Dの転根抵当権は分割により消滅する。
3項趣旨
前項の例を引用すると、B銀行は自分の根抵当権を分割してC銀行に譲渡する場合は、A社とD銀行の承諾を得なければ分割譲渡はできない。
398条の13(根抵当権の一部譲渡)
元本の確定前においては、根抵当権者は、根抵当権設定者の承諾を得て、その根抵当権の一部譲渡(譲渡人が譲受人と根抵当権を共有するため、これを分割しないで譲り渡すことをいう。以下この節において同じ。)をすることができる。
趣旨
元本確定前の根抵当権は、根抵当権設定者の承諾があれば、第三者と一部を譲渡(共有)することができる。前条の分割とは違うので注意。例えば、A社の土地に根抵当権を設定して融資をしているB銀行は、A社の承諾があれば、C銀行と一緒にその根抵当権を共有することができる。分割と違うところは、B銀行、C銀行もどちらも同一の根抵当権者であるという点。